次の世代へ財産を託すために「お客様に合った財産承継手続」のご提案をさせて頂きます。
近年の高齢化社会に伴い「財産承継手続(生前対策)」の社会的要請が年々高まってきております。
生前対策というと「動けなくなってからでいい」「自分にはまだ早い」と仰る方が多くいらっしゃいますが、今は元気でも人生いつ何が起きるかわかりません。2025年には高齢者(65歳以上)の5人に1人が認知症になる時代とも言われており、認知症になってからでは満足に自分の意思をご家族に伝えることも難しくなりますし、亡くなってからですと自分の財産を巡って家族間で争いが起きてしまうこともあります。
今を、これからを、肩の荷をおろして不安のない充実した毎日を送るためにも「元気なうちに行う生前対策(終活)」が極めて重要になります。
子の目線からですと、例えば高齢の親が認知症を発症してしまうと、自ら親の財産の管理が出来なくなり、不動産等の財産を処分することも、施設への入居金として預貯金をおろすことも難しくなります。
この状況になってしまってからの対処方法は、選択肢として「後見制度」しかありません。しかしながら親の(代理人となる)後見人は「裁判所が選任」するため、財産状況によってはご家族が後見人になることが認められず、本人や親族にとって「見ず知らずの弁護士や司法書士」が選任される場合があり、その場合には被後見人である親が亡くなるまで後見人への「報酬」を支払い続ける必要があるため、経済的にも大きな負担となります。
また、ご両親が亡くなった後には各相続人に「相続権」が発生しますので、例え生前に家族間の「口約束」で財産の取り分を決めていたとしても、口約束には遺言書のように法的拘束力がありませんので、いざ権利を目の前にすると財産が惜しくなり、家族間で揉めてしまうケースはよくあります。
生前対策の中で、一番ポピュラーであり、手間も費用もかからず特におすすめの手続きが「遺言書の作成」です。認知症対策にはなりませんが、前述の通り、親が亡くなり、相続人である子の間で相続(遺産分け)をすることになった際に、遺言書を残していなかったために、今まで仲の良かった兄弟が相続開始を境に揉めに揉めて絶縁状態になってしまうことはよくある話です。
当事務所のお客さまでも、相続手続きをご依頼いただく際に「遺言書を残してもらえば良かった」「生前のうちに何かしらの手続きをしておけば良かった」と後悔される方は数多くいらっしゃいます。自分が残した財産が原因で、結果的に兄弟間や親戚間の良好な関係性が崩れてしまうことは絶対に避けなければなりません。相続が争族にならないよう、紛争が起きる前に「争いの芽」をしっかり摘みとることは「生前の義務」ともいえます。
遺言書の作成でしたら、「紙・ボールペン・印鑑」さえあれば5分以内に「効力のある遺言書」として書き残すことが可能です。しかしながら、「どうやって書けばいいのか?」「本当に効力のある文書として残せているのか?」など、また、財産が多い場合には、「自筆の遺言書でいいのか?」「公正証書で遺言書を残した方がいいのか?」「遺言書以外の方法はないのか?」など、専門家ではないとわからないことも多々あります。
当事務所にご相談いただければ、お客さまの今現在の状況に適した財産承継手続きを勧めさせて頂きます。
また、お客さまに過度な費用がかからないよう、ご自身でできることは当方でサポートさせて頂きながら「ご自身」で行って頂き、それでも賄いきれない部分を当方でお手伝いさせて頂くというスタンスをとらせて頂いております。もちろんお忙しい方は全ての手続きを包括してご依頼いただいても喜んでお引き受けいたします。
以下、生前対策の種類や具体的な内容について記載しておりますので参考までにご覧ください。
生前対策には、大きく分けると「財産管理対策」「遺産対策」「相続税対策」があります。
①財産管理対策(認知症の対策)
★ご本人の判断能力が低下する前に「財産承継手続き」を行います。
主な対策としては、≪生前贈与≫≪任意後見≫≪家族信託≫が該当します。
これらは「判断能力が低下する前」に本人自らの意思で行う必要があります。
上記の手続きをせずに「本人の判断能力が低下」してしまい「本人自ら契約の当事者となる場合」には「成年後見人の申立てが必ず必要」になります。
成年後見は、本人の財産が少なく親族間で争いがないようであれば、家庭裁判所の裁量により「親族が後見人(親族後見)」として認められるケースもありますが、最近では親族後見人の金銭の使い込み等が問題視されており、被後見人の財産が多かったりすると容易に親族後見は認めてもらえません。
その場合には、弁護士や司法書士等の専門職が後見人に選任されたり、仮に親族の後見人が認められるケースでも後見人の監視役である「後見監督人(専門職)」が選任されるケースもあります。
専門職は知り合いの弁護士や司法書士であれば安心できるかと思いますが、成年後見で選任される専門職は「面識のない人がランダムで選ばれる」ため、親族からしてみると反りが合わない人とやり取りをしなければいけなくなることも十分に考えられます。尚、専門職は無償では行ってくれないため、「月額2~5万円」ほどの報酬を、被後見人が亡くなるまで「本人の財産から」払い続ける必要があります。
また、例えば「不動産の売却のためだけ」に成年後見人の申立てを行った場合、売却後に成年後見が当然に終了する訳ではなく、後見業務は被後見人が亡くなるまで永続的に続くため、親族が後見人として選ばれた場合には定期的に裁判所への報告義務が課されたり、専門職の後見人が選ばれた場合には報酬を被後見人の財産(相続財産)から支払ったりと、一度申し立てをすると取りやめができず、反りが合わないという理由だけで後見人を解任することができません。
言わば成年後見制度の利用は「仕方なしの最終手段」となります。
「高齢者が判断能力低下後に自ら契約等の当事者になる場面なんてないだろう」と思う方もいらっしゃるかと思いますが、契約等の当事者となるケースは意外と多く、前述の通り、本人名義の不動産を売却する際の売買契約、施設に入所する場合の入所契約(家族や身元保証人で足りるケースもありますが・・・)、銀行窓口での預貯金の引出し、株をお持ちであれば株式の売買、配偶者等が亡くなり相続人となった場合の遺産分割協議等、判断能力低下後に後見人を選任しないと自ら法律行為を行えなくなるケースは数多く存在します。また、金融機関においては、認知症だと判断された場合、即座に現金の引き出しや株式の売買等が制限(凍結)されます。
上記のとおり、成年後見の申立てが必要になる前に、生前対策として、例えば不動産をお持ちの方であれば「生前贈与」や「家族信託」を活用して名義を親族へ移しておけば、煩わしく制限の多い後見制度と付き合うこともありません。まさに備えあれば憂いなしの「今の元気なうちから行う生前対策」が極めて重要となります。
自己名義の不動産をお持ちではなく、預貯金もそれほど多くなく、親族がしっかりサポートできる環境にいる場合には無理に生前対策を行わなくても宜しいかと思いますが、特にご高齢の方で多くの不動産や預貯金・株式等の金融資産をお持ちの場合で、今後、不動産の売却予定のある方や一度に多額の預貯金を引き出す可能性のある方は、是非生前対策(財産管理対策)をご検討ください。
②遺産対策(相続後の紛争予防対策)
★亡くなった後(相続開始後)に相続人同士で揉めないよう「財産承継先」を事前に決めます。
主な対策としては、≪遺言書の作成≫≪家族信託≫≪養子縁組≫が該当します。
これらも「判断能力が低下する前(生前のうち)」に本人自らの意思で行う必要があります。
遺産対策の一番の目的は「自らの意思を後世にしっかりと残し、亡くなった後の相続争いを防ぐこと」になります。仲の良かった子供たちが自分の財産を巡って対立することは絶対に避けなければなりません。そこですべての方に活用して頂きたい手続きが「遺言書の作成」です。
上記①の財産管理対策であれば、仮に行わなくても最終手段である「後見制度」が用意されているため何とかなりますが、この遺産対策においては、遺言書等を残していなければ、例え生前の家族会議で将来のことに関する話しがついていたとしても、その話し合いに法的な拘束力はありませんので、被相続人の死後、相続人の一人が反故にすれば、その生前の話し合いは遺産分割時には「無意味なもの(無効)」になります。
その場合、最終的に協議が難航して遺産分割を放置せざるを得なくなったり、決着をつけるにしても、時間とお金をかけて遺産分割調停や審判(裁判所の手続き)を行い、半ば強制的に解決を図るしか方法がありません。
その点、遺言書には「法的な拘束力がある」ため、遺言書が適正なものであれば、原則、相続人は遺言書に従うことになりますので、内容が不相当でなければ相続人同士の争いを「未然に防ぐ」ことができます。仮に遺留分(相続分の最低保証)を考慮した上で、一部の相続人や第三者に明らかに有利となる内容にするのであれば、生前のうちに理由等を明確に伝えておく等、将来に火種を残さないよう配慮する必要があります。
その他の方法として、相続人が誰もおらず「実際に面倒を見てくれた人に財産を残したい場合」には、当人と「養子縁組」を交わすことで法律上の親子関係が成立し、相続させることが可能です。
また、管理物件や預貯金等の財産を多くお持ちの方で、「認知症対策~相続対策までを包括して行いたい場合」には、最近注目されている「家族信託」という方法もございます。
③相続税対策(節税の対策)
★相続後に多額の相続税がかからないよう事前に「節税対策」をします。
主な対策としては、≪生前贈与≫≪生命保険の加入≫≪養子縁組≫が該当します。
こちらも「判断能力が低下する前(生前のうち)」に本人自らの意思で行う必要があります。
「相続税」とは、相続により財産を取得した際に「その取得した財産に課される税金」になります。
財産の価額が高くなるほど税率が上がる「累進課税」が適用されますので、生前に「いかに財産(相続税の課税価額)を減らす(移す)か」が重要になります。
但し、相続を受けた際に必ず相続税を支払わなければいけない訳ではなく、相続税には「基礎控除」がありますので、相続税の課税価額(財産合計)が「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」に満たなければ相続税はかかりませんので、申告の必要はありません。
また、配偶者が相続する場合には、「1億6千万円までは相続税がかからない」という特則(配偶者控除)も存在します(※但し、基礎控除額を越える場合には相続税0円でも申告義務があります)
相続税の課税価額の算定方法になりますが、下記「プラスの財産ーマイナスの財産」で算出します。
<プラスの財産>
①土地・建物・現金・預貯金・株式等の有価証券・自動車等の財産(※1)
②死亡保険金や死亡退職金のみなし相続財産のうち非課税枠(※2)を越えたもの
③相続人が被相続人より相続開始「7年以内」に贈与を受けた財産(※3)
④生前に相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた財産(※4)
※1・・・海外資産も対象。生前に購入された仏壇や墓地等の祭祀財産は相続税の対象
※2・・・非課税枠は「500万円×法定相続人の数」
※3・・・贈与時の価額で加算
※4・・・贈与時に贈与税の申告を延期したケース
<マイナスの財産>
①被相続人の債務(借金、未払い金等)
②葬儀費用関係(※相続開始後の墓地の購入費用や香典返し・法要の費用は対象外)
以上を生前のうちに大まかに計算した上で、基礎控除額を越える場合には「必ず申告が必要」になりますので、事前の対策をおすすめしております。不動産については、役所から届く固定資産税の納税通知書に記載の評価額から土地・建物の大まかな課税価額を算出することが可能です(※土地は路線価又は倍率方式での評価となるため評価額の1.2倍が目安となり、建物は評価額どおりとなります)
また、相続税の申告は被相続人の死亡を知った日の翌日から「10ヶ月以内」となりますので、特に多くの財産をお持ちの方は、生前のうちから、ある程度の資産の把握及び相続税の計算を行っておく必要があります。
相続税の基本的な対策としては「生前贈与」がベースとなりまして、基礎控除内(年110万円以内)で、毎年将来の相続人に財産を移す「暦年贈与」の方法が一般的ですが、その他、生命保険への加入や養子縁組、不動産投資等で節税できるケースがありますので、相続税を専門とされている税理士さんへ一度ご相談されることをお勧めいたします。
尚、生前贈与の種類に関しましては、下記の「生前贈与の項目」をご参照ください。
各種手続きの内容
ここでは各財産承継手続について、簡単に説明させていただきます。
どの手続きが今の現状に適した手続きかは専門家ではないと分からないことがありますので、詳しくは当職までご相談ください。
≪1.遺言書の作成≫
前述の通り、一番おすすめの手続きが「遺言書の作成」です。
相続人の中で自分の財産を「相続させたい相続人」や「相続させたくない相続人」がいる場合に、遺言書を残しておくことで「自分の決めた割合」で、死後に指定の相続人に対して財産を承継させることができます。
また、相続人以外に財産を残したい場合には「遺贈(遺言による贈与)」という方法を用いて、遺言書により財産を「相続人以外の第三者」に受け渡すことも可能です。
但し、遺言書により決められた相続分が「法定相続分の半分に満たない相続人」は、相続開始後に「遺留分」を請求できる権利があるため、トラブル防止のため、基本的には遺留分を侵害しない(越えない)よう調整しながら遺言書を残す必要があります(※遺留分は法定相続人に最低限保障される遺産取得分→「法定相続分の半分」)
因みに、遺言書を残された相続人は、遺言者が亡くなった後に遺言書通りに手続きするのが一般的ですが、相続人全員で穏便に話し合いができる場合には、遺言書に従わず、遺産分割協議により財産を分けることも可能です。
遺言書の種類は、一般的には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類となります。
自筆証書遺言とは・・・
「遺言者が自ら自筆で書く遺言書」のことをいいます。
「紙とボールペンと印鑑」を用意して頂き、
「①本文(私、○○は全財産を○○に相続させる)②日付③氏名④印鑑」を記入・押印することで簡易的ではありますが「効力のある遺言書」になります。
財産を具体的に記入したい場合には「財産目録」をパソコンで作成及び印刷し、本書に「添付」することも可能です。
自筆証書遺言は相続人間に争いがなく、財産がそこまで多くない方におすすめです。一度遺言書を作成した後でも「簡単に作り直せること」もメリットの1つです。
但し、遺言書には「要件」が細かく規定されており、要件を満たさない(効力のない)遺言書を作っても、いざ相続手続きを行う際に使用できませんので、専門家を入れて作っておくことが望ましいです。
尚、遺言書を発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して「検認手続き(※1)」をとる必要がありますが、下記の「自筆証書遺言書保管制度(※2)」を利用することで、検認手続が不要になります。
※1.検認手続きとは・・・(詳細クリック)
遺言者死亡後、家庭裁判所内で原則、相続人全員立ち会いの下、遺言書の開示及び遺言内容を明確にし、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きになります。
(但し、遺言書の有効性の有無までは判断されないため、無効な遺言書でも検認が通ることがあります)
※2.自筆証書遺言書保管制度とは・・・(詳細クリック)
自筆証書遺言の短所を解決してくれる最適な制度が令和2年7月10日より始まりました。自筆証書遺言は「簡単に作れる」「費用がかからない」等のメリットがありますが、自宅に保管することで「紛失」や「相続人による改ざんの恐れがある」等のデメリットがありました。
この保管制度では、遺言者が遺言書を作成した後に「法務局」に預けることで、
法務局の保管官による遺言書の外形的なチェックが受けられ、遺言書が画像データでも記録されるため、紛失の恐れがなく公正に保管されることになります。
特徴としては、遺言者が希望する場合には、相続開始後に相続人一名へ「遺言書がある旨の通知」を送ることができる点と、相続人の一名が遺言書の交付・閲覧請求をした際には、他の相続人にも通知が届くため「他の相続人に遺言書の存在を知らせないまま黙って執行してしまうようなことが起きない」ことになります。
さらに、一番のメリットといえるのは、法務局に保管されることで、自筆証書遺言では偽造変造防止のために必須の手続きであった遺言者の死亡後に行う「家庭裁判所での検認手続き」が「不要」になることです。相続人全員が時間を割いて家庭裁判所に行く必要がなくなります。
まさに自筆証書遺言と公正証書遺言(下記参照)の「良いとこどり」のような制度になります。
尚、保管制度を「利用」・「未利用(検認必要)」のいずれの場合でも「相続人全員に通知」が届きますので、知らぬ間に遺言書の執行がされることは原則ありません。
保管申請をする際は「遺言書・申請書・住民票・身分証明書・手数料3900円」が必要になり、遺言書の様式にA4用紙等の細かい規定があります。
公正証書遺言とは・・・
「公証人が作成した遺言公正証書」のことをいいます。
法律のプロである「公証人」が遺言の法的有効性をチェックし「公証役場に保管する」ため、遺言そのものが無効にならないことや「紛失・偽造の危険がない」とうメリットがあります。
また、原則として20年間(又は遺言者が120歳になるまで)、原本が公証役場で保存されるのに加え、公文書のため「証明力と執行力」があり、法的紛争が起こった際にも信頼性に優れています。尚、病気などの事情で公証役場に足を運べない場合には、公証人に自宅や病院まで出張してもらうこともできます。
デメリットとしては、公正証書作成日に内容を知られてもいい推定相続人以外の「2人の証人」を同席させる必要がある点と、財産の額に応じて「手数料」および「財産がわかる書類」を作成時に用意する必要があります。
公証人手数料は、目安として「財産合計3000万~5000万円」で「3万円」ほどの手数料がかかりますので、「お金がかかってもきっちりと残しておきたい」方におすすめの手続きになります。
※その他の遺言の種類として「秘密証書遺言」という形式がありますが、「自筆証書遺言と公正証書遺言を組み合わせたような制度」となり、遺言内容を「誰にも見られない」というメリット以外は、両者のデメリットをそれぞれ引き継いでしまう特性(遺言の有効性が不明、検認が必要、公証役場で証人2人必要、遺言書の保管は自分自身)がありますので、当事務所では推奨しておりません。
<遺言書のかんたん比較>
自筆証書遺言
メリット → 簡単!費用がかからない!いつでも作成や変更ができる!
デメリット → 効力ある遺言書を作れるか不安!紛失や変造の恐れがある! (※但し、司法書士への依頼と法務局保管制度を使うことで解決!)
まとめ:簡単で安いが自筆なので不安!そんな時は司法書士と法務局のダブルチェック!
公正証書遺言
メリット → 財産が多くても公正証書なので安心!紛失の心配がない!
デメリット → 費用と手間がかかる!一度作成すると遺言書の内容の変更が難しくなる!
まとめ:絶対的な安心感!だけど手間と費用がかかる!
<遺言書のまとめ>
遺言書は「亡くなる方の最終意思」として残しておくべきものですので、財産が少なく、相続人間で争いになる心配がない場合でも、念には念を入れて「なるべく早いうち」から作成しておくことをお勧めいたします。
当事務所では、基本的には「自筆証書遺言の作成+法務局への保管」という手続きを推奨しておりますが、費用がかかっても「公正証書」として正式に残しておきたい方には「公正証書遺言の作成」をお客様と公証人の間に入ってサポートさせていただきます。
法務局での遺言書保管制度が制定されて以来、遺言書を公正証書として残すメリットがなくなりつつありますので、時代の変化に対応しつつ、お客様に合った遺言書作成プランをご提案させていただきます。
≪2.生前贈与≫
生前贈与とは・・・
生きているうちに自らの財産を将来の相続人等へ贈与することを言います。
遺言書とは違い、生前のうちに財産の分配ができるため「争いの防止」にもなりますし、一番の利点として、被相続人の総財産を減らせるため「相続税の節税」が望めます。
生前贈与の場合に適用される「贈与税の基礎控除や特例制度」をうまく使えば、生前対策を何もしなかった場合にかかる相続税よりも「少ない税金」を納めるだけで済みますし、前々からしっかりと計画を立てて贈与を行えば「全くの非課税」で多額の財産を将来の相続人へ移すことも可能です。将来の相続人同士が揉めていなかったり、事前に相続人へ財産を移すことに不都合がなく、節税のための道筋が立てられるようでしたら、生前贈与は大変おすすめの手続きとなります。
実際に生前贈与を行う場合には、
「生前贈与を行った場合の贈与税」:「亡くなった後にかかる相続税」
を天秤にかけて考える必要があります。
例えば多額の財産をお持ちの方で、生前贈与を行わなかった場合には丸ごと「相続税」がかかかるのに対して、生前贈与を行った場合には基礎控除(年間110万円)を越えた分は「贈与税」がかかりますが、その分将来の相続税は「軽減」されますので、その両方を天秤に掛けた上で節税効果が高い方法を長期的視点で選択する必要があります。
尚、下記の通り、相続税には基礎控除等がありますので、「相続税対策としての生前贈与」が推奨されるケースは、「将来的に相続税がかかること」が前提となります。相続税がかからないのであれば、そもそも生前贈与を行う税金上(相続税対策)のメリットはありません。
相続税の豆知識
相続税は相続財産の合計額(不動産・預貯金・株式・自動車・家財一式・生命保険等から負債等を引いた金額)が課税対象となりますが、下記のとおり控除や減税措置があります。
・相続財産の合計額が「基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)」に満たなければ相続税はかかりませんので、相続税の申告は不要です(※死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで控除可能です)
・配偶者が相続する財産は「1億6000万円まで」は相続税がかからない「配偶者控除」という制度があります。但し、配偶者の相続開始後は結局「子」等に財産が移り、その際に丸ごと課税されるため、相続税の納税猶予の意味合いが強いです(※相続税0円でも申告は必要です)
・不動産相続のケースで、被相続人の自宅を配偶者や同居親族が相続した場合に「土地の評価額を最大80%減額できる制度」として、「小規模宅地等の特例」があります(※こちらも相続税0円でも申告は必要です)
まずは相続税が将来的にかかるかどうか、かかる場合に生前贈与をしておくメリットがあるのかどうか、ある場合にどの程度生前のうちに資産を動かした方がいいのかを検討する必要があります。
贈与税や相続税は「財産をもらう側」がその税率に応じて納めることになります。
下記に「相続税」並びに「贈与税」の「税率一覧」を添付します。
出典:相続税より贈与税は高い?税率に惑わされず賢く財産を渡す方法 (oag-tax.co.jp) OAG税理士法人様
上記表のとおり、基本ベースは贈与税より相続税の方が税率が低いため、無理に贈与税をかけて贈与を行うのではなく、贈与税がかからないよう「基礎控除内で毎年贈与を行っていく方法」が一般的です。
例えば、財産の合計(課税価格)が「1000万円」の場合・・・(※一般税率計算)
・相続税は、基礎控除額より1000万円オーバーしていた場合で、
1000万円×10%=100万円
・贈与税は、
(1000万円ー110万円(基礎控除))×40%ー125万円=231万円
以上のような計算となり、「相続税の方が安く済む」ことがわかります。
この場合、生前のうちに相続税の基礎控除額から1000万円オーバーすることがわかった時点で、例えば、子供2人に生前贈与として毎年100万円ずつ渡していけば、「5年で相続税100万円分の節税」を行うことができます。
但し、令和5年度の税制改正により「相続開始前7年以内の贈与」については、生前贈与加算の対象となり、相続税算出時に「相続財産に加算」されることになりましたので、亡くなる7年以上前から「計画的に」生前対策を行う必要があります。
下記に「一般的な贈与の種類」を記載しておりますが、詳しい計算等は、贈与税・相続税を専門とされている税理士さんへ相談されることをお勧めいたします。
生前贈与の種類
①通常の贈与(暦年贈与)
贈与税は1年間の贈与の合算額(もらう側)に課税されますが、毎年「110万円までの贈与額は非課税」となり、この110万円の非課税枠を利用して毎年110万円以内で贈与し、相続発生(※正確には相続発生7年前)まで地道に相続財産を減らしていく「連年贈与」という方法があります。
但し、毎年一定の金額を贈与することが決まっている贈与(定期贈与)とみなされてしまうと、毎年110万円以内の贈与を続けてたとしても、「贈与額の合計額」に対して贈与税が課税されてしまうため注意が必要です(※一括で贈与した場合と変わらないばかりか、無申告加算税、延滞税がかかる場合があります)
主な対策として「毎年贈与契約書を作成する」や「あえて110万円を少し超える贈与を行い、毎年贈与税の申告を行う」等があります。
尚、前述のとおり「死亡前7年以内の贈与」に関しては、相続人の相続税課税価格に贈与額が加算されますので、暦年贈与は、前々から計画的に行う必要があります。
②相続時精算課税制度
贈与者(あげる側)が【60歳以上】、受贈者(もらう側)が【贈与者の子又は孫で20歳以上】である必要があります。
この課税方式を選択すると、贈与を受けた際は「特別控除額2500万円まで」+「(毎年)基礎控除110万円まで」であれば贈与税を支払う必要がありません。
但し、贈与者が亡くなって相続が開始したときに、(毎年の基礎控除を除いた)贈与額は「相続財産額に加算」されますので、相続税として最後にまとめて支払う必要があります。イメージとしては、贈与税の支払いを相続時まで「先延ばし」にして、最後の相続税の課税時に「清算」する仕組みになります。
「メリット」としては、生きているうちに次世代に「早期に」財産を移転できる点、贈与税率よりも低い相続税率で贈与できる点、その年(翌年)に贈与税を支払う金銭的な余裕がない場合に贈与税の支払いが猶予される点などがあります。
尚、本制度利用時は「死亡前7年以内の生前贈与加算(基礎控除内)」の適用がないことに加え、税制改正により、前述の通り「基礎控除」も適用されることになりましたので、使い勝手の良い制度になりつつあります。
「デメリット」としては、相続時精算課税制度の利用を開始した段階で暦年贈与方式に戻ることができない点と、「特別控除額2500万円+毎年の基礎控除110万円」を越えた部分は贈与税率が「一律20%」になる点、贈与財産が不動産の場合には相続時に小規模宅地特例が適用されない点などがあります。
③住宅取得等資金の贈与
直系尊属(父母や祖父母等)から住宅取得等資金の贈与を受けた場合に、一定の要件(贈与年の1月1日現在の満年齢が20歳以上、贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下など)を満たす時は、贈与金額500万円~1000万円ほどの金額が非課税となります。
(※現在適用があるかどうかは国税庁のホームページよりご確認ください)
④教育資金の贈与
直系尊属(父母や祖父母等)が、信託銀行など金融機関に子や孫名義(※受贈者は30歳未満が条件)の口座を開設し、教育資金を一括して拠出した場合、子・孫ごとに1500万円までの資金については、贈与税が非課税となります。
(※現在適用があるかどうかは国税庁のホームページよりご確認ください)
⑤贈与税の配偶者控除
婚姻関係が20年以上等の一定の要件を満たす配偶者に対して、居住用の不動産又はそれを取得するための資金を贈与したときは、贈与税につき、基礎控除110万円の他に「最高2000万円の控除」の適用があります。
上記特例を受けて被相続人から贈与された居住用財産については、相続発生前7年以内の贈与であっても「生前贈与加算の対象に含めない」ことができるため、有効な節税策となります。
(※現在適用があるかどうかは国税庁のホームページよりご確認ください)
生前贈与のまとめ
生前贈与を行う場合、税金面では「贈与税」と「相続税」のバランスを考える必要があります。生前対策としていかに多くの贈与を行っても、結果的に相続税を払った方が安く済むのであれば本末転倒ですので、「総体的に判断」する必要があります。
尚、贈与には「金銭」の他に「不動産、株式、車等」の贈与も含まれ、上記以外にも税金面で優遇される場合や軽減措置が置かれている場合がありますので、個別に確認する必要があります。
また、将来の相続人の目線から考えた際に、被相続人から生前に贈与を受けることは「特別受益」にあたりますので、相続時に生前贈与を受けた分は、相続開始後の相続人間での話合いの際に自己の相続分から減らされてしまう(贈与額が自己の相続分を超えていれば相続を受けられない)可能性がありますので留意が必要です。
当事務所にご依頼いただきましたら、税金の専門である税理士さんと密接にコンタクトをとりまして、生前に贈与するメリットがある場合には、適切な生前贈与プランを提案させていただきます。
≪3.家族信託≫
○家族信託とは・・・
家族信託とは、将来、認知症等により自分の財産の管理ができなくなってしまった時に備えて、家族に自分の財産の「管理又は処分できる権限を事前に授与しておく手続き」のことで、現在新しい財産管理方法として注目されている財産承継手続きになります。最初の契約等が複雑ではありますが、今現在~先の数世代に渡って財産承継先を指定することで、元気なうちからご自身の財産を家族に託すことができます。
後述の任意後見が「実際に自分が認知症等になるまでは、(原則)後見人が財産管理を開始できない」のに対し、家族信託では「委託者が元気なうちに受託者が財産管理を開始できる」ので、信託契約を行った後でも契約内容を組み替えて、最適な信託内容に設計し直すことができます。
尚、任意後見契約とは違い「裁判所による証明を受ける必要はない」のですが、公証役場で「信託契約書(公正証書)」を作成されることをお勧めしております。例えば、当事者の一人が信託契約書を紛失しても「再発行」してもらうことができますし、日付や内容について「委託者本人の意思に基づくものであることを証明」してもらうことができます。
○家族信託の仕組み
信託では、下記の通り「委託者」「受託者」「受益者」という登場人物がいます。
「委託者」・・・受託者に財産を託す人
「受託者」・・・委託者から財産を託されて、管理や処分を行う人
「受益者」・・・託された財産の運用で発生する利益を受け取ることができる人
基本的には下記の3類型となります(※例として、祖父・息子・孫を入れてます)
①委託者(祖父)⇒受託者(息子)⇒受益者(孫) ※他益信託
祖父が自分の資産を息子に管理・運用してもらい、そこから出た利益を孫に渡すという仕組みで、祖父と息子で「信託契約」を結びます。
②委託者(祖父)⇒受託者(息子)⇒受益者(祖父) ※自益信託
祖父が委託者兼受益者となり、資産を息子等に管理・運用してもらい、そこから出た利益を自身に還元してもらう仕組みで、祖父と息子で「信託契約」を結びます。こちらの方法は、信託の際に贈与税がかからず、次の受益者を指定できるため、家族信託において最も利用される方法になります。
③委託者(祖父)⇒受託者(祖父)⇒受益者(息子) ※自己信託
祖父が委託者兼受託者となり、資産を自分自身で運用し、そこから出た利益を息子等に渡すという仕組みで、受益者自身の手元に財産がないため、「浪費癖のある息子」や「認知症により財産管理能力のない配偶者」を受益者にするケース等で活用されます。委託者=受託者であり契約が結べないため、委託者が「信託宣言」をすることで信託が成立します。但し、一人の意思表示で成立するため「公正証書又は受益者へ確定日付ある証書の通知」により行う必要があります。
以上が基本類型になりますが、家族信託は幅広く財産の道筋をたてることができるため、例えば、上記②の自益信託の方法で、亡くなった後に息子を受益者に、息子が亡くなった後に孫を受益者にするよう「第1、第2の相続人を信託契約で定めることも可能(受益者連続型信託)」であり、「遺言書より広い範囲」で財産の承継先を決めることができます。この方法でしたら贈与税は発生せず、通常通り亡くなった後の相続により「相続税」が発生することになります(※税金は受益者の受益権に対してかかります)
【豆知識】家族信託には倒産隔離機能もある?
家族信託で信託する信託財産は、信託した時点で「本人の遺産ではなくなる」のと同時に「受託者の名義」にはなりますが、受託者の固有財産ではなく「誰のものでもない財産」として扱われ、最終的に受託者の手から離れ、受益者に給付された時点で「受益者の固有財産」になります。
「誰のものでもない財産」として扱われることのメリットとしては、金融機関や公的機関等の「債権者が手出しできない財産」となるため「財産の倒産隔離」として使える面があります。
例えば事業を営んでいて、会社が債務超過により倒産した場合、一般的には保証人となっている社長個人の財産も差し押さえられ、会社と社長個人が同時に破産するケースはよくありますが、
この家族信託制度を利用することで、社長の個人財産と信託財産を分別することができるため、社長個人の財産が破産によって差し押えられたとしても「信託財産だけは保護することができる」というメリットがあります。
ただし、社長個人が受益者になっている場合には、信託受益権に対しては債権者による差押えが可能なため「倒産隔離としての効果が得られない」のと、詐害信託といい、支払困難な状況が顕在化してきた後に債権者を害するために信託契約を結ぶと信託契約が「無効」とみなされることがあるため、倒産隔離としての家族信託をする際には注意が必要です。
○家族信託のメリット
☑生前の元気なうちに財産管理をスタートできる!
生前のうちから家族信託の仕組みをスタートでき、元気なうちは受託者の行為に積極的に関わり、監督することができるため、亡くなった後の状況を予測しやすい。また、家族信託は私人間の契約で、裁判所が関与しないため、成年後見制度では金額が大きい財産の処分等には「家庭裁判所の許可」が必要になるところ、家族信託では一切必要ない。尚、受託者の行為に不安があれば信託監督人を選任することもできる。
☑遺言としての機能もある!
家族信託でも遺言書の役割を果たすことができ、遺言書よりも取り決め可能な範囲が広い。遺言で指定できるのは本人死後の「一次相続のみ」だが、家族信託では「二次・三次相続人の指定」に留まらず、認知症になってしまった人に代わる「資産承継者の指定」も可能。ただし、信託30年ルールといい、信託契約締結から30年経過後に受益者か、その次の受益者が死亡すると、法律上当然に信託が終了するため、信託の効果は永遠ではないことに注意が必要。
☑信託財産は債権者に取られる心配なし!
信託財産は、委託者や受託者の固有財産にはならないため、債権者の強制執行の対象にならない。よって、自益信託(委託者=受益者)で事業者が自己破産した場合、信託財産には手をつけられない(※前述の通り例外あり)
☑不動産の売却や大口の預貯金の引き出しもスムーズ!
信託時に登記名義は信託受託者へ移転されるため、不動産の売却をする際に、本人の意思能力は必要ないため、本人が認知症等になって判断能力が低下しても、自宅をスムーズに売却できる。また、大口の預貯金を引き出す際もストップがかかることなく引き出せる。
☑将来の相続人同士のトラブルを予防できる!
例え遺言書を残していたとしても、内容によっては相続人間で揉めることがあるが、家族信託では生前から将来の相続人と直接話し合うことができるため、言葉のキャッチボールができ、将来の相続人同士のトラブルを予防できる。
○家族信託のデメリット
☑手間と費用がかかる。
信託内容を決めた後に「信託契約書の作成(公正証書)」や「信託口座の開設」等の手続きを行う必要があり、手間と費用がかかる。特に不動産を信託する場合には「不動産登記(登記簿の名義変更)」が必要となり、登録免許税等の税金が別途かかる。
☑「身上看護機能」がない。
成年後見制度では、後見人が法定代理人となるため、被後見人の施設の入所手続き等の身上面での法律行為を行い、被後見人の生活や療養看護を保護する「身上看護機能」があるが、家族信託には身上看護としての機能がない。周りでサポートできるご家族等がいる場合には問題ない。
☑「年金の運用」ができない。
委託者に給付される年金は「信託口座に入金できない」ため、年金の運用は家族信託では扱えない。上記2つの対策として、家族信託と併せて「移行型任意後見契約(年金や家族信託以外の財産管理や身上監護の機能がある)」を締結し、家族信託の弱点を補う方法がある。
☑信託契約書に記載しない財産は信託の対象とはならない。
信託契約書に記載のない財産については、信託(生前対策)を行っていないものとしてみなされるため、当該財産については、本人が認知症等になった際は、後見人を選任しないと契約や処分等ができず、相続が発生した際には、相続人同士で揉めてしまう可能性がある。信託の受託者には、後見人のような「法定代理権がない」ため、事前に「すべてを網羅した漏れのない契約書」を作成することが極めて重要となる。尚、信託できない財産として「農地(転用許可がおりない場合)」・「年金受給権(一身専属権)」・「負債等のマイナス財産」がある(※抵当権付きの不動産は金融機関の承諾があれば可能)
☑直接的な節税にはならない。
家族信託では、受益者の相続時にはきっちりと相続税がかかり、受益権を譲渡すれば贈与税がかかるため「節税効果は望めない」。基本的に課税対象は「受益者のもつ受益権」になります。
○一般的な家族信託の流れ
- ①家族信託の内容を決めます
- 1.家族信託の目的
(例:認知症対策、生前の財産対策等)
2.信託財産
(例:自宅、収益物件、預貯金500万円等)
3.受託者の権限
(例:収益物件等の管理、預貯金管理)
4.家族信託の当事者
(例:委託者兼受益者→父、受託者→息子、後継受益者→孫等)
5.家族信託の期間
(例:○○が死亡したときまで等/※委託者、受託者、受益者がそれぞれ死亡した場合に信託契約を終了させるか否か)
6.信託終了時の財産帰属先
(例:全ての信託財産を息子に承継させる等)
7.その他
(例:受託監督人の選定、受託者が亡くなった場合の新受託者の指定等)
- ②信託財産(金銭)を管理する「信託口口座」が近くの金融機関で開設可能か確認します。
- 仮に開設できない場合は、一般的な「信託専用口座」を作成する。受託者には、個人財産とごっちゃにしないよう「分別管理義務」が発生するため、銀行口座の開設は「必須の手続き」となります。信託口座は、下記2種類あります。
1.信託口口座
信託の仕組みを活用してることが外形上明らかな口座
(※委託者、受託者名義が記載される専用口座)
【メリット】
:受託者の事情により口座を凍結されたり差し押さえられることがない。
【デメリット】
:開設には信託契約書の「公正証書化」及び金融機関の「法務チェック」が入る。
2.一般口座
受託者が信託財産の管理用に新規で開設する「受託者名義」の個人口座(※外形上は普通の預金口座)
【メリット】
:一般の口座のため簡単に開設が可能。
【デメリット】
:受託者名義の口座のため、受託者の債権者から信託財産を差し押さえられる可能性がある。リスク回避のため信託契約書に口座番号を明記することが必要。
- ③委託者と受託者で信託契約を結びます
- 基本的には公証役場にて「公正証書」の形で信託契約書を作成します。信託契約の他に「遺言による信託」も可能です。
- ④委託者の財産の名義変更等の手続きをします。
- 不動産があれば「信託登記」を申請し、受託者へ名義変更を行います。その際、信託目録を作成します。
- ⑤信託契約に基づいて「信託口座」を開設します。
- 以上が簡単な信託開始までの流れなります。
○家族信託のまとめ
家族信託の基本事項を説明させていただきましたが、家族信託は後見制度のように裁判所が関与しないため自由度が高く、初めに信託契約を締結する段階で様々なことを想定して漏れなく契約をしておくことで、遺言や後見制度で補えきれない法律上の穴を埋めることができ、委託者の思い通りに設計することで確実な財産承継ができます。
基本的には、ご本人が「委託者=受益者」の形で、動ける親族を「受託者」として「管理権限」を授けることで各種手続きを行ってもらい、ご本人が亡くなるまでは自己に家賃等の収益が入るように設定し(認知症対策)、ご本人が亡くなった後は、指定の受益者が相続する方法(相続対策)で、両方の対策を行うケースが多いです。
家族信託は後見制度に比べて自由であるが故、難易度が高いため、専門家へ相談されることをお勧めします。当事務所では、お客さまのご意志をできる限り尊重させていただく上で「堅実な信託プラン」をご提案させていただきます。
≪4.任意後見契約≫
○任意後見制度とは・・・
成年後見制度のうちの1つとして数えられますが、成年後見とは異なり、任意後見制度とは、本人自らが将来、判断能力が衰えてきた時に備えて、あらかじめ自分が信頼のおける人を「後見人」として決めておくことができる制度になります。
通常の成年後見では、本人の判断能力を欠く状態になってから、親族がやむなく候補者を立てて裁判所に申し立てを行いますが、任意後見は本人の意思がはっきりしているうちに自分をサポートしてくれる人を選べるため、本人の意思が尊重されます。
尚、「任意後見人」が業務に就けるのは、本人の判断能力が衰え、正式に家庭裁判所に申立てが行われた後になりますが、「事前に」任意後見人と「財産管理委任契約」等を結んでおくことで「判断能力が低下する前」でも自分でできることは自分で行い、代理人に頼みたい部分のみ代理人に任せることが可能です。
○任意後見の種類
任意後見には下記3種類の類型があります。
①将来型
元気なうちに「任意後見契約」を締結し、「後日」判断能力が低下してから監督人の選任を行うことで任意後見契約の効力が生じるもの。★基本パターン
②即効型
本人の意思能力がまだある状態(軽度の認知症)で、任意後見契約締結と「同時」に監督人の選任申立てを行うもの(※下記手続き①~④を同時に行う)
③移行型
任意後見契約の締結~判断能力が低下するまでは「任意代理契約」等を締結し、判断能力低下後に監督人の選任を行い「任意後見契約」に「移行」するもの。この際に付随して行う契約として任意代理契約のほか、「見守り契約」や「死後事務委任契約」があります。
○手続きの流れ
上記①の一般的な「将来形」の手続きの流れになります。
①任意後見人を「誰」にするか決定する。
基本的に支援できる人であれば、破産者や未成年者を除き、親族や友人、又は知り合いの弁護士や司法書士等、誰でも任意後見人とすることができます。
②任意後見人に「何」をしてもらうかを決定する。
任意後見人への依頼内容は、当事者間の「自由な契約」になりますので、財産管理や療養看護等、法律行為に将来の生活に関する具体的な希望や金額等を記載したライフプランを作成します。
③任意後見契約を「公正証書」で締結する。
契約書は公正証書で作成することが必須で、契約締結後に公証人から法務局に対して、任意後見登記の嘱託が行われます。これにより、任意後見人に選ばれた人の地位が公的に証明され、登記事項証明書を取得できるようになりますが、この時点では任意後見の効力は生じていません。
④判断能力が低下したら、申立権者(親族等)が家庭裁判所にて「任意後見監督人選任の申立て」をすることで「後見開始」となる。
審判がなされた時から契約の効力が生じ、任意後見が開始されます。これにより登記事項証明書の記載事項が、任意後見受任者→任意後見人に変わり、任意後見監督人が新たに登記されます(※任意後見監督人には、弁護士等の専門職が就く場合が多いです)
因みに、後見登記事項証明書(又は登記されていないことの証明書)を取得できるのは、本人・任意後見人・任意後見監督人・4親等内の家族、又は、左記の者から委任を受けた者のみとなります。
○任意後見のまとめ
なんといっても信頼のおける人を身近な後見人とすることができ、家族信託と同様に「本人の希望に添って制度設計ができる」ため自由度が高いです。
また、法定後見の場合には必ず後見人の報酬が発生しますが、任意後見の場合には報酬額も「自由に」決められるため、報酬なしとすることも可能です(但し、任意後見監督人への報酬(月1万円~)は必ず発生します)
家族信託と比較した場合では、任意後見は「公証役場や裁判所がらみの手続き」となるため厳格な要件を求められますが、任意後見人に選ばれた人の地位は「公的に」証明されるので、登記事項証明書1通で任意後見人は身分を証明することができます。
法定後見と比較した場合では、任意後見人には「法律上の取消権がない」ため、本人が悪徳商法に引っかかってしまった際などに契約を取り消すことができない等のデメリットがあります。また「包括的代理権」を持つ法定後見人と違い、任意契約で定められた行為以外の「代理権がない」ため、家族信託と同様、事前に漏れなく契約を行うことが重要になります。
≪5.養子縁組制度≫
○養子縁組とは・・・
養子縁組とは・・・
血縁関係にない人同士が「法律上の親子関係」を結ぶための制度のことをいいます。
相続対策として、この養子縁組を利用することで、自身(養親)が亡くなった際に養子を「実子と同列の法定相続人」にすることができます。
例えば、孫や子供の配偶者(法定相続人ではない者)に相続させたい場合に「有効な手段」となりまして、
特に夫が亡くなり、義理の父親の療養看護等の労務を提供した妻は、今では「特別寄与料の請求」を義理の父親の相続人に対して行えるよう法改正がなされましたが、手続きとしては「寄与した内容や財産の維持・増加に関する証明等」を妻自身で行う必要があり、
又、相続人に対して請求を行い、話し合いがまとまらなければ「裁判上で解決する他手段がない」ため、場合によっては非常に煩雑で時間のかかる手続きとなります。また、特別寄与料の請求ができるのは「相続人以外の親族」に限定されるため、親族に該当しなければそもそも請求することもできません。
その点、養子縁組を行えば、親族ではない者も「相続人の一人」になれますので、当然に相続権を主張することができます。また、相続税の面でも相続人が増えることで基礎控除額が増える点で「節税効果がある」ため、大きなメリットと言えます。
○養子縁組の種類
①普通養子縁組
・一般的なもの
・実親との親子関係は存続する
②特別養子縁組
・要件が厳しく家庭裁判所の審判が必要
・実親との親子関係は解消される
・養子は15歳未満である必要がある
○(普通)養子縁組が認められる条件
①養親が成人していること
②養子が養親よりも年長者ではないこと(※但し、年下でも叔父、叔母等の尊属は養子にできない)
③養親・養子共に養子縁組の意思があること
④養親・養子共に結婚している場合には配偶者の同意があること
⑤養子が15歳未満の場合には法定代理人の承諾があること
※上記条件を満たしてさえいれば、例えば兄弟間(兄が養親、弟が養子)で養子縁組を結ぶことも可能です。
○養子縁組のメリット・デメリット
<メリット>
・法定相続人(配偶者や子供)以外に財産を相続させることができる
・相続人がいない場合でも、世話をしてくれた人に財産を相続させることができる
・法定相続人が増えることで基礎控除額も増え、相続税の節税になる(※但し、控除可能な養子は2人まで)
・生命保険金や死亡退職金の非課税枠が増える(※こちらも相続税の節税に繋がります)
<デメリット>
・相続人が増えるため、遺産分割で揉める可能性がある
・孫を養子にする場合には、相続税が2割加算される
・子の配偶者を養子にした場合には、配偶者の親族に財産が渡る可能性がある
・養子縁組により、養子は養親の苗字に変わる(※結婚していて配偶者の苗字に変えている場合は変わりません)
○(普通)養子縁組の手続きの方法
1.養子縁組に「必要な書類(下記)」を用意する。
①養子縁組届 ②身分証明書 ③場合によっては養親・養子の戸籍謄本、配偶者の同意書
2.養子縁組届に養親・養子・それぞれの証人が「署名・捺印」を行います。
3.養子縁組に関する「戸籍の届出」を養親又は養子の本籍地又は住所地のある「市区町村の戸籍係」に提出する。
※未成年者を養子にする場合は「養子縁組許可審判書(家庭裁判所の許可)」が必要です。
※15歳以下の場合は上記に加えて「法定代理人(親権者等)の承諾書」が必要になります。
※養子縁組(普通養子縁組)をしても「実親の相続権は残る」ため、「養親および実親の相続権がある」ことになります。
○養子縁組のまとめ
相続対策としては、相続人がいない場合に、世話をしてくれた人に財産を残せるよう養子縁組を結ぶケースが多いです(※相続人がいない場合に何も手を打たないと最終的に財産は国庫に帰属します)
生前に贈与を行う場合はもらう側に贈与税がかかってしまうため、「相続人」として相続させることで、贈与税よりも税率の低い相続税の負担で済みますので、結果的に節税対策にもなります。
注意点としては、他に相続人がいる場合に、相続人以外の第三者と養子縁組を結んでしまうと、相続開始後に相続人との間で揉めてしまうことも考えられますので、将来的に紛争になる可能性がある場合には、養子縁組ではなく「遺言書を残す方法(遺言による贈与)」をおすすめしております。
遺言書ですと、相続人から取得者に対して遺留分を請求される可能性がありますが、遺言執行者を定めることで相続人とは原則コンタクトをとることなく相続手続きが可能です。
尚、「養子縁組を解消(離縁)」するためには、離婚の手続きと同様に「協議・調停・裁判」による方法があります。
≪6.生命保険の加入(資産の組み換え)≫
おまけにはなりますが、生命保険に加入することでも「相続税対策」になります。
○相続対策としての生命保険の特徴
1.保険金の受取人として「将来の相続人」を指定できる。
遺言書と同様に特定の親族に対して、相続(保険金を受領)させることができます。また、受取人が被相続人(本人)以外の場合には「受取人固有の財産」となりますので、「相続財産から外す」ことができます。但し、下記2の通り、相続税の計算時においては「相続財産として算入」されます。
2.相続税を算出する上での相続財産の「課税価格を減らす」ことができる。
保険料を被相続人が支払ってきた場合には、生命保険金は「相続税の算出時における被相続人の相続財産」として組み込まれてしまいますが、「保険金の非課税枠」があるため「500万円×法定相続人の数」の分は、保険金の総額から引くことができます。例えば、夫の相続人が妻・長男・長女の3人であれば、生命保険を利用することで「500万円×3人分→計1500万円」が控除されます。
3.相続放棄した場合も受取人に指定されていれば「保険金は受け取れる」。
被相続人が負の遺産しかなく、相続人が相続放棄をした場合でも、生命保険金は受け取れます。但し、相続放棄をした場合には、生命保険の非課税枠は使えなくなります。
○生命保険のまとめ
相続税対策として向いている生命保険は、「(一時払い)終身保険」になります。
終身保険は、保証が一生涯続く保険となりまして、いつ相続が発生しても必ず保険金が支払われるため相続対策に適しています。また、途中解約した場合には解約返戻金を受け取ることができますので、老後の資金準備にも活用が可能です。
詳しくは保険会社へご相談ください。
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上記でご紹介させていただいた「6つの財産承継手続き」は一例になります。
その他に、例えば相続税対策として「不動産を購入(建築)すること」も節税対策になり得まして、不動産の相続税評価額は時価よりも基本的には「低く評価」されますので、
現金1億円で相続税を課されるより、時価1億円で不動産を購入し、評価額(目安)6~7千万で課税された方が「相続税が安く済む」といった例もあります。
但し、不動産の購入(不動産投資)はリスクが付きものですので、当事務所では「相続税対策として」はあまりお勧めしておりません(※ご自宅の建替えやリフォームをする分には宜しいかと思います)
尚、「税金」が絡んでくるお手続きに関しては、手続開始前に税理士さんからのアドバイスを受けられることをお勧めいたします。
当事務所にご依頼いただきましたら、税理士さんと連携して、手続面・税金面のメリット・デメリットを鑑みた上で最適なお手続きをご案内いたします。
多くの方にお気軽に生前対策を行っていただきたいため、格安価格でご対応させて頂きます。
業務の種類 | 報酬(税抜) |
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遺言書作成 | 自筆証書遺言(※完全サポート) 20,000円~ 自筆証書遺言+法務局保管制度利用(※完全サポート) 30,000円~ 公正証書遺言(※完全サポート) 40,000円~ 遺言書の検認(※家裁への申立てサポート) 20,000円~ |
生前贈与 | 贈与契約書の作成 10,000円~ 贈与契約書の作成+不動産の名義変更 40,000円~ |
家族信託 | 100,000円~(信託契約書の作成~公正証書化まで) ※手続内容や財産価額によって費用が異なりますので、一度ご相談ください。 |
任意後見 | 100,000円~(任意後見契約書作成~公正証書化~監督人申立てまで) ※任意後見契約書作成のみの場合は30,000円~ |
養子縁組 | 20,000円~(※完全サポート) |
生前対策のご相談 | ※メールの場合は「無料」ですので、「お問い合わせ」よりお気軽にご相談ください。 |
※その他の業務につきましてもお気軽にご相談ください。
※一般的な司法書士事務所では、財産の金額に応じて費用が高くなることが多いですが、当事務所では、財産の額ではなく、手続きの量で費用を算出させていただいております。
※上記報酬の他に、登録免許税や送料等の実費がかかる場合があります。
生前対策について一通り説明させて頂きましたが、ご本人が元気なうちに「手続きをしておく」のと「手続きを全くしない」のでは、財産の量にもよりますが、残されたご家族が「今後直面する手続きの負荷」が全くといっていいほど違います。
当事務所で実際に不動産売買(決済)のご依頼をいただく際にも、売主様が高齢で施設に入所されていて「ご売却に関する意思確認が取れない」なんてことは常々あり、その場合は「成年後見の申立て」に移行することになりますが、ご親族の方も後見人になる準備ができていなかったり、入居費の支払いのために早急に売却資金が欲しいのに成年後見の申立てで半年以上かかったりと、最終的に不動産が売れない・・・なんてこともあります。
また、相続手続きをご依頼いただく際に、被相続人に子供がいる場合にはそこまで相続関係が複雑になることはありませんが、子供がおらず、相続分が兄弟姉妹に移る際には「相続人が数十名いる」なんてことはよくあり、「遺言書を残しておいてくれさえすれば・・」なんてお声を毎回のように聞きます。
特に、今後親御さんから財産を承継される予定の方は、親御さんが元気なうちに財産承継手続きのお話をされて、元気なうちにお手続きをしていただくことがご自身のためにもなりますので、是非「お元気なうち」にお話をされてみてください。
金銭的な余裕がない場合には、できる限りお安く済むよう、遺言書作成等に関するノウハウをお伝えしますので、ご相談だけでもいただけますと幸いです。